
| 地方に根付いたなすの品種 |
いろいろな野菜の中でも、とくに「なす」は、品種により果実の色や形がバラエティーに富んでいます。宮崎安貞という人の書いた「農業全書」(1690)にも長・丸・紫・白・青などの品種があると記されています。現在日本で栽培されている「なす」は紫紺色のものがほとんどですが、江戸時代にはいろんな色や形の「なす」が栽培されていたようです。
日本では、一般に「なす」の品種の場合、果実の形状で品種群にわけて分類しています。下の表は熊沢三郎・二井内清之 両氏が1956年に分類した国内の在来品種の一覧表ですが、「なす」の品種名はその品種が定着した地名がついているものが多く、このことからも土地柄に密着して発達してきた野菜であるといえるでしょう。
| 日本の「なす」の品種分類 | ||
| 品種群 | 代表品種 | 類似品種 |
| 丸 | 巾 着 芹 川 |
魚沼巾着・越前丸 大芹川・大阪丸・大仙丸・吉川 |
| 丸ナスは、もともと北京や天津を中心に中国の華北で栽培されていた「北京大円」などの品種が日本に伝わって品種改良を受けたものだと思われます。この品種は主に京阪から北陸地方に分布しています。「巾着」の名前はその形から来ており、「芹川」は京都の地名でいずれも大型の丸ナスです。とくに「芹川」は江戸時代から京都の鴨河原で栽培されていて今では「賀茂茄子」という名前のほうが有名でしょう。「大阪丸」は大阪近郊で栽培されていた小型の丸茄子、「大仙丸」はかつての大阪府農業試験場の所在地名をつけた改良品種。「吉川」は福井県丹生郡の地名でこの地方の古くからの在来品種です。 | ||
| 小 丸 | 椀 ぎ 民 田 |
耳鳴り・吉田早生千成 札幌早生・ぬれ羽鳥 |
| 小丸ナスは丸ナスから分かれてきた品種だといわれています。一般に極早生で小型の丸ナスです。草勢(樹の勢い)が弱いので果実の小さいうちに収穫をします。「椀ぎ」(もぎ)は京都の吉田や聖護院で栽培されていた品種で着果数が多く次々にもぎ取ったのでこの名がついたといわれています。「耳鳴り」は山形県北佐久郡の地名。「吉田」は京都市の吉田が名前の由来です。「民田」は山形県東田川郡の地名で主に漬物用として栽培されています。「ぬれ羽鳥」もこの地方の品種です。 | ||
| 卵型 - 長卵型 | 千 成 真 黒 山 茄 蒂 紫 山 科 |
蔓細千成・折戸・都千成 早生真黒・中生真黒・原島・香貫 中生山茄 早生蒂紫・晩成蒂紫 新山科・山城真黒 |
| もともとは中国の華中の品種が元になっているといわれる品種群です。関東地方で多く分布しています。「千成」は文字通りたくさんの実がなるという意味で蔓の細い「蔓細千成」やかつての千葉農業試験場の所在地名をつけた「都千成」。「折戸」は静岡県静岡市の地名で関東以外でも広く栽培されていました。「真黒」はその名のとおり色が黒いのが特徴です。「原島」は埼玉県草加市内の地名で「真黒」の原種だといわれています。「山茄」は東京都豊島区の地名を取った「雑司ヶ谷ナス」が山の手で栽培されていたので別名「山茄」と呼ばれていたとのことです。「蒂紫」(へたなす)は石川県金沢産のナスで多くの品種はヘタの下の光のあたらない部分が白いのにこの品種はこうせんの影響がなくても色がついて ヘタの下も紫になるのでこの名がついたといわれています。「山科」は京都府山科の地名です。山科は東山によって京都の町と隔てられた盆地でこの東山山麓の西野付近で栽培されていた品種です。昭和初期の京都のナスの生産量の6,7割がこの品種で占められていたといいます。 | ||
| 中 長 | 橘 田 大 市 |
早川2号・静岡11号 大阪中長・大歳 |
| 東海・近畿地方を中心として発達してきたなすの品種ですが山陰など地域にも分布しています。中国でもこれに類する品種は華北・華中・華南と広く分布しています。このことから比較的地域適応性の高い品種群だといえるでしょう。「橘田」は愛知県海部郡甚目寺町に根付いた品種で、育成・栽培の中心となった橘田氏の名前から名づけられたといいます。F1(一代雑種)の草分けとなった「橘真」の親となったことで有名です。「大市」は兵庫県武庫郡(現西宮市)の地名です。「大歳」は山口県吉敷郡大歳村で栽培されていたことからこの名前がついています。 | ||
| 長 | 河辺長 南部長 大阪長 佐土原 津田長 |
仙台長・改良南部長 大仙長 熊本長・改良清水早生・泉中長 岩坂長 |
| 西日本と東北地方にそれぞれ分布している。西日本のものは果実の肉質がやわらかく、東北地方のものは果実の肉質がしまっています。「河辺長」は秋田県河辺郡、「南部長」は岩手県、「仙台長」は宮城県でいずれも東北地方で栽培される代表的な品種です。とくに「仙台長」という品種は伊達正宗が朝鮮の役に出陣した折、博多に立ち寄り長なすを持ち帰ったものだといわれています。西日本の品種名は「佐土原」は宮崎県宮崎郡佐土原町、「清水早生」は福岡市三宅字清水、「津田長」は島根県八束郡津田村といった地名に由来しています。 | ||
| 大長 | 博多長 久留米長 |
箱崎中長・新宮茄 企救長・長崎長・恵那長 |
| 主に北九州を中心とした九州地方で栽培されている品種です。その名のとおり果実は長く、果肉がやわらかいのが特徴です。品種名はいずれも地名から来ていて、「箱崎長」は福岡市、「企救長」は小倉市、「恵那長」は岐阜県恵那郡の地名です。 | ||
| (熊沢三郎・二井内清之より 1956 ) | ||