いろんな種類のなすの話vol.3

日本の在来品種の分布

「なす」の果実の形状別品種群の分布略図
「なす」の果実の形状別品種群の分布略図 
 左側の地図は先ほどの熊沢・二井内氏が作られた「なす」の品種分布の表をもとに、日本地図を9つのブロックに大まかに区切って、在来種のなすの果実の形の分布を略図にしてみたものです。もちろん実際の品種分布はこんなふうにはっきりと区分けできるものではありませんが、大まかなところがわかればと思って作成してみました。「なす」は中国から直接または東南アジアを経由して全国各地にひろがりそれぞれの地方の気候・風土によって独特の在来品種が生まれたことは前にお話しました。日本列島のように緯度・経度ともに幅が大きく気象条件も違うところでは、九州などの暖かい地域で能力を発揮する品種を東北・北海道などのように春の訪れが遅く、秋になると冷え込むのが早い気候の所で栽培しても、品種のもつ能力が十分に発揮されるとはかぎりません。こういった場所でなすを栽培するとすれば早生(種を蒔いてから実をつけるまでが早い品種)の品種でないと十分な収穫を上げることができません。東北地方の在来種「民田」などのような小丸なすは、このような性質をもっていますのでこの地で栽培されたのです。もちろん長なすでもこのような性質を持ったものであれば栽培は可能ですし、東北地方の長なすは九州などよりも小さいサイズで収穫をするといった栽培上の工夫もなされていました。 一方、九州には長なすの在来種が多いのですがこれらは晩成(種を蒔いてから収穫するまでの期間がながい種類)の品種が多いのが特徴です。九州のような暖かい気候のところは春になってからの気温の上昇が早く、秋になっての冷え込みも遅いので「なす」の生育期間を長くとることができます。ですから晩成種でも十分な収穫を得ることができて特産となることができたのです。「なす」の品種一つとっても気候風土を上手に利用して生活していた昔の日本人の知恵には頭が下がる思いがします。

日本の在来品種が消えてゆく
 昔は「なす」に限らず野菜の種子は自分のところの畑で栽培しているものから色や形のよいものなどを採種用として残して種を保存していました。この繰り返しが長年続けられて、その地域独特の品種が育成・保存されてきました。こういった地方の気候風土の中で地域の農家や種苗業者によって守られてきた在来品種が消えつつあります。理由は「代表的な栽培品種」のところで触れたように、農村や農家にも経済性と合理性が求められるようになって、栽培しやすく、輸送に向き、青果市場から好まれるF1(一代雑種)品種の栽培が主流になってきたからです。一代雑種は、雑種強勢といって自家採種されたものよりよく育ち、収穫量も多くなります。そのため傷みやすく輸送に向かなかったり、収穫量が少なかったり、全国的な市場のニーズに向かないといった品種が栽培されなくなってきているのです。
 地方の在来品種はそれぞれの気候風土が守り育ててきた文化遺産といってもいいと思います。地方種の中には皮がやわらかいとか、早生性が強いといった優良な遺伝子を持ったものも多いのです。地方の品種を保存していくことは将来の品種改良にとっても大変重要なことなのです。しかし現在では従来のような農家や育種家では経済的な面などで難しくなっていることも事実です。このため農林水産省や野菜試験場などではシードバンク(育種銀行)などを設けてこれら消滅の恐れのある遺伝子資源の保存や収集を行っています。